小林博士のモクズガニ生態図鑑 本を閉じる
むかし、むかし、福間本木の谷川に、それは大きなカニが住んでいました。何百年もの間生きてきたので、体はこけだらけで、手足を動かすたびにギシギシと不気味な音をたてていたそうです。村の人たちはこのカニを「山太郎ガニ」といって、たいそう怖がっておりました。 谷川のそばには、山寺が建っておりました。ある日のこと、和尚さんがいつものように座禅を組んでいますと、山太郎ガニがのっそのっそとやって来ました。 「和尚にひとつ聞きたいことがある」山太郎は自信たっぷりに言いました。「和尚は、両手両足を組んでただじっと座っとるだけじゃがそげなことして何になる」。 「わしは、ほかの者では見ることのできん心の中の宝を見とるのじゃ」と、和尚さんはと答えましたが、山太郎は、ばかばかしくなって大声で笑ったそうです。 「おれは両眼を突きだしてあたりを見回し、十本もの手足を自由自在に動かして、珍しい宝物を探しとる。和尚のように、ただじっと座っとったんじゃ、何の役にも立たん」と山太郎が言うが早いか「この大ばかものめが!カッ!!」と、和尚さんは、大声をはりあげ如意※で、山太郎の背中をたたきました。 カニの背中がくぼんでいるのは、このときの傷跡だそうです。 ※和尚さんが仏教の教えを説いたり、お経を読むときに持つ長さ30cmほどの棒